- 2023/12/21
- 2024/07/26
メタバースの活用で地方創生は実現可能か?取り組み事例を紹介
仮想空間を構築して、さまざまな取り組みに活用できるメタバースですが、地方創生の実現にも活用できるか気になる人もいるのではないでしょうか。
現在地方自治体では、人口減少や地方経済の停滞といったさまざまな課題を抱えています。課題を解決するために、メタバースの導入を考えている自治体もあるでしょう。
そこで今回は、地方創生の実現に向けてメタバースでできることや、実際の取り組み事例を紹介します。メタバースの活用によるメリットも紹介しますので、導入を検討している方は、ぜひご覧ください。
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目次
1. メタバースとは
メタバースとは、インターネット上に構築された仮想空間を指し、超越を意味する「meta」と世界を意味する「universe」を組み合わせた言葉です。1992年に出版されたアメリカのSF小説「スノウ・クラッシュ」の中で初めてメタバースが使われました。
メタバースの特徴として、自分の分身である「アバター」を操作してほかのユーザーとコミュニケーションが図れます。また、土地や不動産などを仮想通貨を用いての取引ができるといった、現実世界さながらの経済活動ができる点も特徴の一つです。
スマートフォンやパソコンなどのデバイスを用いることで、メタバースへアクセスが可能です。また、Meta Questのようなヘッドマウントディスプレイを装着することで、より没入感のある体験ができます。
2.自治体が抱えている課題
地方自治体が抱える課題には、主に人口減少や地方の衰退が挙げられます。
人口の減少については、転入や転出による「社会増減率」と、出生や死亡などによる「自然増減率」の2種類に分けて見ることができます。沖縄県を除き、どの自治体も社会増減率・自然増減率ともに減少傾向です。
人口減少の原因には少子高齢化が挙げられますが、その他に都市部への流出もあります。都市部へ人が流れることで、地方の税収や労働力の不足、インフラの整備が滞るといった問題につながりかねません。
労働力が不足すると地方に展開している企業が撤退し、さらに都市部への流出が加速するといった悪循環を生んでしまいます。その結果、行政サービスの低下や生活環境の悪化といった悪影響を及ぼしてしまうでしょう。
3.地方創生のためにメタバースでできること
地方創生に向けた取り組みにメタバースを活用する場合、どのようなことができるのでしょうか。ここでは、メタバースの導入で実現可能なことについて解説します。
3-1.メタバース上に再現された地方の魅力を発信
メタバースを活用することで、現実世界と同じような空間が再現できます。そのため、地方の観光名所や穴場スポットを再現し、いつでもどこでもアクセスできる環境を構築することで、地方の魅力を世界へ発信できます。
メタバースは主に視覚と聴覚による体験であるため、メタバースでの体験で興味を持った人が地方を訪れ、実際に触れてみたいといった行動にもつながることも。テレビは雑誌などのメディアではできないような訴求ができる点が、メタバースの魅力です。
3-2.地方の特産品やNFTの販売
従来のECサイトでは、画像や文章で商品の魅力を発信することがほとんどでした。しかし、メタバースでは自分の分身であるアバターを利用できるため、メタバース上でアバターを介して地方の人たちから特産品の説明などが受けられます。
メタバース上に特産物を製造している工場を再現することで、工場見学をしているかのような体験も可能。様々な工夫により、購入意欲をかき立てるような取り組みができます。また、メタバース上でNFTの販売をすることで、売上を自治体の収益として扱うことができます。
3-3.リモートワークの導入による定住者の増加
仮想空間であるメタバースは、場所を選ばずに構築できる点も特徴の一つです。そのため、さまざまな業務においてリモート化に適しています。
例えば、医療機関がメタバース上に診療所を開設し、遠方に住んでいる方を診察するといった取り組みも可能です。メタバースの活用により、都市部に行かなければできなかった仕事が、地方に住みながらでもできます。
リモート化による取り組みが広がると、人口流出の防止や都市部に住むよりも生活費が節約できるといったメリットを受けられるようになるでしょう。
4.メタバースで地方創生に取り組むメリット
メタバースの導入により、地方創生におけるメリットはさまざまあります。今回は主なメリットについて以下の3点を紹介します。
- 関係人口の増加や雇用の拡大
- 地方の名所や文化財の保存
- 対面に近いコミュニケーションの実現
4-1.関係人口の増加や雇用の拡大
関係人口とは、その地域に住んでいる人の人口や観光で訪れた人ではなく、地域や地域の人々と多様に関わりを持っている人たちを指す言葉です。関係人口の取り組みは、副業や兼業といった仕事に絡めるケースや、地方のお祭りやイベントに携わるといった形で交流することなどが挙げられます。
関係人口に関する取り組みで成功した事例として、2014年にエストニアで行われた「イーレジデンシー」と呼ばれる仮想住民制度が挙げられます。
仮想住民制度とは、エストニアに住んでいない外国人に対してデジタルIDを発行し、政府発行の電子サービスを一部利用できる制度です。イーレジデンシーを展開して以降、世界中から9万人の関係人口を創出したほか、取り組みを評価した投資家からの投資も集められました。
メタバースでもイーレジデンシーのような取り組みが可能であることから、関係人口の増加だけでなく雇用の拡大にもメリットを与えてくれるでしょう。
4-2.地方の名所や文化財の保存
地方にある文化財や名所は、現在管理者や後継者不足が深刻です。このまま問題が解決されない場合、老朽化や災害によって消滅してしまう危険性もはらんでいます。
そこで、文化祭を保存するためのツールとしてメタバースの活用に注目が集まっています。メタバース上に建造物のデジタルデータを保存するだけでなく、設計書なども残すことで設計や保存に関するノウハウを次の世代へ伝えることが可能です。
4-3.対面に近いコミュニケーションの実現
メタバースでは、自分の分身であるアバターを使って、世界中の人たちと対面に近いような状況でコミュニケーションを図ることができます。音声技術や3DCG映像の導入で、よりリアルに近いコミュニケーションの実現も可能です。
2022年8月に株式会社アドバンスト・メディアは、AI音声対応アバター「AI Avatar AOI」をリリースしました。AI Avatar AOIはChatGPTと連携し、人間と話しているかのような自然な会話や動きを実現しています。音声技術に優れたアバターの活用により、地方の観光名所の案内や特産品の紹介などに利用できます。
5.メタバースを活用した地方自治体の取り組み事例
地方創生に向けたメタバースの活用は、多くの地方自治体で進められています。各自治体の特色を生かした取り組みが行われており、実際に成果を上げているところもあります。
ここでは、メタバースを活用している自治体の事例を10点紹介します。
5-1.静岡県焼津市「バーチャルマグロ解体ショーを開催」
静岡県焼津市は、2022年8月に開催されたVRイベント「バーチャルマーケット2022Summer」に出展しました。会場の一つである「パラリアル大阪」にて、焼津市のPRやふるさと納税の返礼品の紹介といった市の魅力について発信するブースを展開しました。
焼津市はミナミマグロ漁が有名ですが、バーチャルマーケット2022では世界初となる「バーチャルマグロ解体ショー」を開催。大きなマグロ包丁を使い、本物さながらにマグロが切り分けられていく様子が楽しめるなど、迫力のあるパフォーマンスが披露されました。
ふるさと納税の返礼品の紹介では、ネギトロ丼やカツオのたたきなどをリアルに再現。また、直接ふるさと納税の寄付サイトへ移動し、寄付もできるなど焼津市を支援する仕組みとなっていました。
5-2.石川県金沢市「メタバース上で特産品を購入」
出典:PR TIMES
株式会社Palanは、石川県金沢市に店舗を構える「MIHON-ICHI-KANAZAWA」のショップをメタバース上に展開。XRを活用した、新たな買い物体験に関する実証実験を行いました。
兼六園やひがし茶屋街などがバーチャル空間で再現され、観光気分を味わいながら金沢の魅力を体験できるようになっていました。そのほか、購入から配送までを簡単に進められるため、遠方に住んでいる人でも金沢市にちなんだ商品を購入できます。
ショップ内で気になった商品があった場合、ARを活用して自宅に配置できるなど、購入後の使い方をイメージしながら、ショッピングを楽しめる仕様となっていました。
5-3.兵庫県養父市「吉本興業と連携して観光名所を再現」
出典:養父市
兵庫県養父市では吉本興業株式会社と連携し、バーチャルプラットフォーム「VRchat」にて「バーチャルやぶ」を開設しました。養父市の魅力を発信する空間をメタバース上に展開し、地元特産品や養父市の魅力を発信。そのほか、市民同士の交流を目的としたトークスペースを用意しています。
イベントスペースではリアルでのイベントとも連携し、メタバースとの同時開催も実現しています。また、利用者は吉本興業所属のタレントと養父市がコラボしたゲームをプレイできるほか、バーチャル市役所にてデジタル住民票の交付も可能です。
養父市の広瀬栄市長は、メタバースやぶを通して養父市の魅力を実感してもらい、将来は養父市に足を運んでもらいたいとコメントしていました。
5-4.兵庫県淡路市「メタバースを活用して本社機能を移転」
出典:PR TIMES
人材派遣事業などを展開するパソナでは、2020年9月から東京都から淡路島への本社機能の移転を段階的に進めています。2023年度末には本社社員の3分の2にあたる約1,200人が淡路島へ異動する予定です。
淡路島にて新しいリモートワークの取り組みとして、メタバースの活用も検討。地方にいながらでも、都市部と変わらない仕事環境の構築を目指しています。
本社機能の移転に合わせて、2021年7月に淡路島に「淡路アバターセンター」を開設。淡路アバターセンターでは、アバターを操作するオペレーターの育成やアバター人材による対人接客業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスの展開を進めています。
BPOサービスとして、2021年11月〜12月にかけて大阪市道頓堀・戒橋のポップアップストアに表示されているアバターを、淡路市のアバターセンターから遠隔操作で接客販売を行う試みも行われました。
5-5.広島県三原市「メタカープを活用した情報発信」
出典:広島テレビ
広島県三原市では、ふるさと納税の発信などに「メタカープ」と呼ばれるメタバース空間を活用しています。メタカープとは、プロ野球広島東洋カープのファンクラブ会員向けに開発されたもので、広島東洋カープの試合をメタバース上で観戦できるといった特徴があります。
三原市は、メタカープ内にブースを設置し、ふるさと納税を利用する人向けに三原市のサイトへアクセスできるコーナーを設置。そのほか、三原市の特産物を使用した「広島みはらプリン」の販売などを行っています。
三原市では、ファンクラブ会員と一般参加者を対象とした広島東洋カープの選手が登場するイベントも開催。選手のトークショーやメタカープ内で選手とコミュニケーションが取れるコーナーを実施しました。
5-6.新潟県長岡市「仮想山古志プロジェクト」
出典:山古志
新潟県長岡市の旧山古志地区では、人口が約800人ほどと過疎化が進み、人材難や後継者不足に悩まされています。
そこで、過疎化対策として2021年にNFT技術を活用したデジタルアートを山古志地区の電子住民票として発行。その結果、国内外から約850人のデジタル住民を獲得できました。
デジタル住人は、メタバース上に山古志地区を再現した「仮想山古志」を開発。利用者との交流や、現実世界で行われているイベントの閲覧といった取り組みを実施しました。
そのほかの取り組みとして、山古志地区の住民とデジタル住民による新しい村づくりに関するディスカッションも開催されました。現在では、デジタル住民の人数が実際の人口を上回っているほか、デジタル住民が実際に山古志地区を訪れるといった動きにもつながっています。
5-7.福井県越前市「越前市メタバースこころの保健室」
出典:メタバースメンタル
福井県越前市では、メタバース上に引きこもりなどの悩みを持つ人を対象とした相談や支援を行う「越前市メタバースこころの保健室」を開設。対面での相談が苦手な人でも、アバターを用いて匿名で医師との相談や交流が可能です。
2023年2月にメタバースによるヘルスケアコミュニティサービスを展開する「株式会社comatsuna」と協定を締結し、プロジェクトを進めています。
越前市では2021年度に「福祉総合相談室」を開設し、引きこもりに悩む家族との相談や自宅を訪問しての支援といった活動を行っていました。しかし、引きこもりをしている本人に会うことができないと言ったケースもあったことから、今回のプロジェクトが進められることになりました。
5-9.山梨県甲府市「メタバースによる引きこもり相談窓口を解説」
山梨県甲府市では、2023年10月10日に引きこもり支援にためのメタバース空間「甲府市メタバース 心のよりどころ空間/森の相談ルーム」を開設しました。開発はリプロネクストが担当し、引きこもりの当事者でも利用しやすい空間を構築しています。
これまで甲府市のひきこもり相談窓口に寄せられた相談は、家族からのものが多く、当事者に会えない状況がありました。そこで、アバターでのコミュニケーションが取れるメタバース上であれば、本人が相談しやすい環境が作れるのではとの背景から、今回の取り組みが始まりました。
メタバース上にはプライバシーを確保した「心のよりどころ空間」と「森の相談ルーム」の2つの空間を用意。どちらも落ち着いた雰囲気を感じさせる空間となっており、リラックスしながら相談できるよう配慮されています。
5-9.佐賀県嬉野市「メタバース内で嬉野市内を観光」
出典:PR TIMES
佐賀県嬉野市では、西九州新幹線の開業に合わせてメタバース上に西九州新幹線嬉野温泉駅を再現した「デジタルモール嬉野」を開設しました。アバターを用いて嬉野温泉駅周辺を散策できるほか、茶畑や酒蔵を訪問することもできます。
デジタルモール嬉野には、コインを手に入れられるポイントがいくつか存在しています。コインを集めることで、現実の店舗でさまざまな特典が得られるカプセルトイガチャを回せるなど、遊び心満載の作りとなっている点が特徴です。
2023年8月には、デジタルモール嬉野内に設置されたステージで嬉野温泉夏祭りの花火大会を中継し、2,000人以上が視聴しました。今後は、現実世界で販売されている商品を、メタバース内でも購入できる仕組み作りも検討しているとのことです。
5-10.山形県村山市「メタバースを活用した婚活イベントを実施」
出典:PR TIMES
山形県村山市では、2023年2月に東北で初の試みとなるメタバース上での婚活イベントを開催。このイベントは、都市部への人口流出が進んでいる地方への移住政策の一環として行われました。
「marry360 むらやまバレンタインマッチングイベント」と称したこのイベントには、男性5名、女性6名が参加。メタバース空間「GIGA TOWN」に参加者がアバターで入場し、自己紹介や1対1でのトークなどを楽しむなど、イベントは大盛況に終わりました。
このイベントでは5組のカップルが誕生し、参加者からは対面よりもアバターの方が会話がしやすかったなどの声が寄せられました。村山市の担当者は、今回のイベントを通して短い時間でも参加者同士に絆が生まれやすいことを感じ、今後は別の分野でもメタバースを活用していきたいと意気込んでいました。
5-11.岩手県「メタバースを活用した食の交流会・商談会を開催」
岩手県では、これまで県産の農林水産物の販路開拓のためにさまざまな取り組みを行ってきました。しかし、近年はライフスタイルや消費行動の変化などにより、新しい販路拡大モデルの構築といった課題を抱えていました。
そこで、リプロネクストではメタバースを活用した商談会と交流会を2023年9月と12月に開催。9月に行われた商談会では、岩手県内の生産者や加工業者が出展。商談ブースにて参加者からの質問に答えていたほか、参加者に対して食材や商品に関するヒアリングが行われるなど、活発なコミュニケーションが図られていました。
12月には交流会と称してテレビ番組などメディア出演経験のあるシェフが手掛ける県産食材を活用したフードボックスの提供や、トークセッションを実施。
メタバースを活用したフードショーは日本では前例のない試みでしたが、生産者や加工業者の食品に対する思いをダイレクトに感じられる有意義なイベントとなりました。
6.メタバースを活用する際の課題
メタバースを取り入れた地方創生における課題の一つに、情報格差が生まれる点があります。
メタバースは主にスマートフォンやタブレット、パソコンを利用しますが、これらのデバイスを持っていない層にはメタバースは認知されにくい状態です。そのため、デバイスを持っている層と思っていない層との間に、拡散が生まれてしまう可能性も考えられます。
メタバースを活用する場合、運用に関する知識やノウハウをある程度持っていることが必要です。しかし、運用する側の知識が不足していると、有益な発信ができません。知識やノウハウがまだ不足している場合、メタバースに精通した人材からサポートを受けることで、適切な運用方法を学べるでしょう。
7.まとめ
現在の地方自治体は、人口減少や地方の衰退が進んでおり、課題解決に頭を悩ませている状況です。 人口減少の主な原因として、少子高齢化や都市部への流出があり、企業の撤退や生活環境の悪化に陥る可能性もあります。
地方の魅力を発信するため、メタバースを活用する自治体が徐々に増えており、現実世界で行われているイベントとの連携を行っている自治体も出てきています。 今後さらにメタバースの活用が増えていくことで都市部の流出を抑え、地方の活気が戻ることも期待できるでしょう。
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